我々の生活空間を構成する諸要素の総体を「環境」と定義すると、環境の仕組みは複雑多様であり、その地域の「自然環境」や「社会環境」などによって異なるものである。本研究室では、主に人と自然環境とのかかわりに着目した「環境デザイン」に関する研究と設計を行っている。
「自然環境」は基本的に、気温や湿度、降雨、日照、季節風といった「気候的環境」と、傾斜地や水辺、扇状地といった「地理的環境」に大別される。このような自然環境は、時には人間の生活を脅かすこともあるが、上手に付き合えば我々の暮らしを快適にする大切な要素にもなる。そのため人々は古来より、長い年月をかけて、厳しい自然環境の中で快適に暮らすための知恵と工夫を獲得してきた。それは、単に建築物を美しく装う行為ではなく、人間を取り巻く自然環境との関係性を構築することであり、本研究室で扱う「環境デザイン」に相当する。
しかし、このような伝統的な先人達の知恵の多くは継承されることなく我が国の都市は発展し続けてきた。その代償として、私たちは今、地球温暖化をはじめとする様々な環境問題に直面している。そこで、私たちの身の周りで起きている環境問題に対して、建築に何ができるのかを真摯に考え、積極的に提案し、時には実践することが当研究室の課題である。具体的には、土着的集落や現代の環境建築、都市の水辺空間などを対象に、その空間構成の分析や微気候の実測などを行いながら、自然要素を活かした都市と建築の環境デザインの今後のあり方を探っている。
一人の人間を主体として、それを取り巻く諸要素の総体を環境と定義したとき、人間が居住する環境のデザインの典型として、家を建てる行為があげられる。そのとき、設備に頼らなくても快適で、使いやすく、時の経過とともに味わいが出て、さらに安全で落ち着いた空間をつくりたい。そんなあたりまえの人間の要求を満たすための建築設計を行うことが居住環境デザインである。このことを実践することで、いわゆる持続可能(サステイナブル)な建築とは何かも理解することができる。
持続可能な建築の典型として、しばしば地域の気候風土に根ざした土着的(ヴァナキュラー)な民家や集落が例に取り上げられる。しかし、伝統的に培われてきたこれらの集落のデザイン手法は、その有効性を定量化することの難しさから、科学的に検証された例は少ない。一方、AMeDASデータなどに代表されるように、近年になって地域固有の気候に関する情報の蓄積が充実し、また実測機器の性能も著しく向上している。そこで、これらの知的財産を最大限に活用しながら、国内外の土着的集落における、自然エネルギーを利用するための居住環境デザイン手法の把握を試みている。
<研究例>
・広島賀茂地方における居蔵造り農家・茅葺き民家の空間構成に関する研究
・・・2011年度都市計画学会研究交流特別委員会社会連携交流組織(代表者)の申請が採択されました。
・東南アジアの水上集落の空間構成に関する研究
地域固有の温湿度や季節風といった気候的環境だけでなく、傾斜地や水辺といった地理的環境の状況によって、建築物の周辺には、その土地独特の微気候が発生する。そのため、川辺や海岸、湖畔といった水辺空間は、周辺の土地に涼しい風を取り込むオープンスペースとしての役割も担っている。また、都市の水辺空間は、古来より人々が密接に水とかかわってきた生活空間でもあり、様々な文化が育まれてきた。そこで本研究室では、都市の水辺空間を単なる公園的機能にとどめるのではなく、オープンカフェなどの市民がより積極的に水にかかわることができる建築的な活用手法の調査研究を行っている。
<研究例>
・都市の水辺の社会実験に関する研究
・・・2010~2012年度都市計画学会研究交流特別委員会社会連携交流組織(構成員)の申請が採択されました。
・水を中心としたと集落の空間構造に関する研究
・・2010年度科研研究費補助金基盤研究(C)(一般)(分担者)の申請が採択されました。
・水辺の公私計画論に関する研究
・・・2017~2019年度都市計画学会研究交流特別委員会社会連携交流組織(構成員)の申請が採択されました。
・・・2017~2019年度科研研究費補助金基盤研究(C)(一般)(分担者)の申請が採択されました。
地球温暖化防止に向けて、CO²の削減が急務となっている昨今、建物の建設に費やすエネルギーはもとより、建設後の維持管理に要するエネルギーの削減が重視されている。このような背景のもと、自然エネルギーを有効に活用するパッシブデザインが注目され始めている。パッシブデザインとは、地域の気候特性を活かしながら、エアコンなどの設備機器に頼ることなく、建物自体によって太陽熱や風の流れを制御し、地球環境への負荷を低減するとともに、快適な住環境をつくりだす設計手法のことである。
これまでは、パッシブデザインの基本的手法は気密と断熱といわれ、冬の寒さをしのぐことができる高気密・高断熱住宅が普及してきた。それはまた、夏季の太陽熱を遮断するため冷房負荷を軽減する効果もある。しかし、夏の暑さをエアコンなしでしのぐためには、自然換気や日射遮蔽が基本であり、冬の寒さ対策とは相反する。特に、近年の高気密・高断熱化した住宅では、夏の暑さをエアコンなしでしのぐことが困難である。そこで、一部の建築家や工務店、研究所などの努力により、太陽熱を蓄熱して冬の暖房に利用したり、夜間の放射冷却で夏の冷房を行う手法など、様々な技術が開発されてきた。
本研究室では、このような全国各地のパッシブデザインの試みを網羅的に調査し、それらの設計手法と効果の関係を整理しながら、現在抱えている課題を浮き彫りにし、その解決策となる新たなパッシブデザインのあり方を模索している。
さらに、雨水利用といえば、庭の散水などの生活用水としての利用が良く知られているが、現代住宅に見られるパッシブデザインでは我が国独特の気候要素である雨水は使われていない。そこで、雨水を活用した自然冷暖房システムに関する研究を行っている。
<研究例>
・現代住宅作品のパッシブデザイン手法に関する研究
・雨水による自然冷暖房システムの開発
・・・2008年度(独)科学技術振興機構(JST)のシーズ発掘試験(発掘型)(代表者)に採択されました。
・・・2013~2016年度科研研究費補助金基盤研究(C)(一般)(代表者)の申請が採択されました。
建築という行為は、住まう人の居住環境を築く行為であると同時に、その建築が存在するまちの環境を築いていく行為でもある。つまり、建築物を主体として、それを取り巻く諸要素の総体を環境と定義したとき、その環境をデザインすることが、都市環境デザインということになる。
わが国の都市環境をデザインする上での重要な課題のひとつに、都市の健全な水循環系を再生することがあげられる。特に地面の被覆率が高い都市部においては、ヒートアイランド現象や地下水の枯渇、雨水が一気に川に流れ出す都市型洪水といった問題が発生している。そこで本研究室では、都市化によって不浸透化した土地に、浸透施設や貯留施設を設ける雨水流出抑制手法だけでなく、都市の微地形を利用した自然流下による雨水のせせらぎなど、よりローテクな雨水操作によって、人々が日常的に地域の気候変動を知覚でき、同時に都市洪水を調整する計画手法の提案とその効果の検証を行っている。
<研究例>
・水路跡をせせらぎ道として活用した雨水流出調整に関する研究
都市や建築の計画設計行為は、環境学だけでなく総合的な観点によって行われるものであり、限られた視点での研究成果が応用できるとは限らない。そこで、研究成果の応用性の確認と、獲得した知見の啓蒙を目的として、建築設計やまちづくり活動を実践している。
<研究例>
設計作品のページ